ヘンリー・ダーガー / Henry Darger

「面倒な社会から遮断されて、思い切り自分の好きな世界に浸りたい」。

 

=パラダイスの住人?

 

または「自分が創世した世界を、意のまま存分に操りたい」。

 

=言わば「創造主」のポジション?

 

 

 

人として社会に揉まれる中で、誰しも一度は夢見る生き様ではないでしょうか。

 

 

でも、もしもこの願望を本当に実現していた人物がいたとしたら。

 

あなたは、この人物と遺作に対し何を思うのでしょうか……。

 

 

 



 

ヘンリー・ジョセフ・ダーガー。

 

( Henry Joseph Darger 1892年4月12日〜1973年4月13日)

 

当時のアメリカ社会ランクで、底辺クラスの賃金でつつましい生活を送りながら、教会に足繁く通うのが生き甲斐の敬虔なクリスチャン。

 

一生の大半をシカゴとその郊外で過ごし、後半40年は1.5間の貸間に独居していた。

 

 

常にゴミ箱を漁る無口な変わり者で、稀に口を開けば「天気」の話題だけ。

 

家族とは死別(妹は所在不明)し、生涯独身のまま81歳没。

 

彼の残したものは、うず高いゴミまみれの部屋だけ。

 

 

ここまでの略歴を見る限り、どこの街でもたまに見かけそうな人物像です。

 

が、ゴミやガラクタを片付けにかかった家主は、その下に埋もれたあるものを発見して仰天しました。

 

 

 

それらは、家主と同様、後に世界中の度肝を抜く代物。

 

 

 

おびただしいゴミの中に紛れていたのは、「非現実の王国」だったのです……。

 

「シュヴァルの理想宮」といい、ネコノヒゲ、こういう人物の作品に心惹かれる傾向があるかもしれません()

 

 

 

 

部屋から発見されたのは、約60年かけて完成させた全15415ページの世界最長小説。

 

(全15冊 タイプライター清書/ うち自作製本済7冊)

 

そして、その物語の挿絵をまとめた巨大な画集が3冊。

 

(自作製本済)

 

他に、全8冊の自叙伝等。

 

絵は大小合わせて数百枚(裏表とも描かれている)あり、最大の絵は全長約3.7mを超えます。

 

 

 

「非現実の王国で(In the Realms of the Unreal)」は略称で、正式なタイトルは、

 

「非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコ-アンジェリニアン戦争の嵐の物語」

 

 

挿絵の初見。

 

相当インパクトを受けたと同時に、何故かとても落ち着かない気持ちになりました。

 

物凄く興味を惹かれつつも目を逸らし、でも、怖いもの見たさで振り返りたくなる……とでも申しましょうか。

 

 

これらの作品が生まれた経緯を詳しく知った時、その訳が理解できた気がしました。

 

恐らく「誰かに読んで(あるいは見て)もらうことを前提にせず、ひたすら己のためだけに自分が内面に持つ理想像や願望を表現し尽くした作品群」だから。

 

 

 

あまり良い比喩ではありませんが、「他人の遺品整理中、びっしり書き込まれた手書きノートを発見し、走り読みしてみたら、赤裸々な日記だと気づいた時の気恥かしさ」に似た感覚、と申しますか。

 

しかも「うっかり踏み込んでしまって申し訳ないのだけれど、もう少し詳しく読んでみたい」ような。

 

 

そんな複雑な気分になりながらも、ヘンリー・ダーガーの手法や感性を楽しみたくなる、吸引力を備えた作品群だと思います。
家主がアーティストのネイサン・ラーナー氏だったのは、幸運だったのか、それとも不幸だったのか……。

 

 

 

ところで、「世界最長小説なのに、なぜ絵画で紹介?」と思われた方。

 

鋭いです。

 

が、これにはネコノヒゲ的な理由がございます。 → 書籍「非現実の王国で / 非現実を生きる」

 

 



 

 

 


 
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