クリプトス(Kryptos) =まだ解けていない暗号= その1
「クリプトス」は彫刻で、厳密にジャンル分けすると芸術作品に相当しますが、お楽しみ要素が暗号解読のため、こちらでご紹介。
1990年11月3日、アメリカのCIA本部敷地内にどかんと設置されたオブジェ。
全面に打ち抜かれた多数のアルファベット+「?」+「スペース」。
「クリプトス(ギリシャ語で「隠す」の意)」と名付けられたオブジェはS字の曲面を持ち、平面に起こすとこのような内容。
左半分870の文字列(※不足の1文字を加算した数)が暗号、右半分が解読用のキーになっているのです。
KI〜K3の解答は、ジェームズ・ギログリー氏(James Gillogly 1999年発表)とデヴィッド・スタイン氏(David Stein 1998年解読・1999年公開)によって公表済ですが、赤文字のK4が未解読ゾーン。(因みにスタイン氏はCIAの方ですが、暗号解読の専門部署ではないとの事)
以降、未だ世の暗号愛好家を悩ませている彫刻です。
その後2010年、彫刻の制作者ジム・サンボーン氏(Jim Sanborn)が、K4の解答の一部を公表。
64〜69番目の「NYPVTT」(黄色の下線部分) → 「BERLIN」になるそうです。
……K4の解読、頑張ってみませんか?
関連記事 → 「エニグマ(ENIGMA)」 シミュレーター
K0の符号(モールス信号と羅針図)
クリプトスと共にCIA本部入口他に配置された、御影石や赤い花崗岩・銅板でできたオブジェ達。
この銅板部分に、様々なモールス信号が書かれています……が、国際基準のモールス信号を当てはめても一部意味が通じません。
また、モールス信号は全て回文になっています。
岩のオブジェには他に羅針図も描かれており、クリプトスの暗号解読に連動するヒントのようです。
こちらは、オブジェに書かれたモールス信号の詳細な位置と羅針図を掲載していらっしゃるので、気軽にCIAの敷地に立ち入れない一般人には大変有難いサイト。 Gillogly’s pictures
尚、「全ての暗号が解けた時点で、実際にCIAの敷地に入って確認しないと、この暗号に隠されていた真の解答は分からない」とサンボーン氏談。
でもCIAの広報課にツアー申込みすると許可は下りるとのことですので、「解けた〜!!」と思われた時点でお申込みをご検討頂ければと思います。
CIAホームページ (何故かCIAの採用情報も掲載されています……)
※※※※※※ ご注意 ※※※※※※
ここから先は、K1〜K3の解答と解き方を掲載していますので、「先に解答を知りたくない!」と思われる方は閲覧をお控えくださいますようお願いいたします。
解読の前準備
解読前に、上の暗号とキーを、見やすいように1文字ずつ並べてみました。(※スペースの都合で、THE CODE→上 THE KEY→下になっています)
《THE CODE》
《THE KEY》
こうして見ると、全段が同じ文字数ではないことや、暗号とキーの数が合致するようには配列されていないことが分かります。
尚、THE KEYの3方向の縁にあたる文字を着色したのは、これらがインデックス代わりになっていて、K1〜K3の暗号解読には関与していないため区別しました。
K1・K2とも共通していますので、具体的な解き方の前に、簡単にヴィジュネル暗号のおさらいをいたします。
ヴィジュネル暗号とは、「ヴィジュネル方陣」+「鍵(キーワード)」の2つが揃って初めて「暗号化」できるというもの。
クリプトスに当てはめると、
・ 「THE CODE」 ← 「暗号化」した文章
・ 「THE KEY」 ← 「ヴィジュネル方陣」
・ 「鍵(キーワード)」 ← ※未解読段階では不明
「暗号化した文章」「ヴィジュネル方陣」はオブジェで公開済ですので、これを解読するために何が何でも必要なのが「鍵(キーワード)」。
しかし、キーワードの設定に、長さ(=文字数)の制約がない上、内容も自由に決められるため、セキュリティ度合が大変高いのです。
逆に、これが分からない限り解読できないという難問でしたが、これを探し当てたのが先程のギログリー氏とスタイン氏。
ただ、両氏の「鍵」の探し当て方は対照的で、ギログリー氏が「Pentium II(ペンティアム2)」プロセッサを駆使(データ解析ソフト リバースエンジニアリングのブルートフォースアタック(総当たり解読))したのに対し、スタイン氏の方は紙と鉛筆方式でした。
それでは解読の手順に移ります。
K1の解き方
K1・K2ゾーンは共に、ヴィジュネル暗号を使った換字式暗号。
お二人が苦心して見つけたK1の「鍵」 = PALIMPSEST
意味は「書かれた文字等を消し、別の内容を上書きした羊皮紙の写本のこと(-Wikiより)」
このキーワードによって両氏が導き出した解答は
“BETWEEN SUBTLE SHADING AND THE ABSENCE OF LIGHT LIES THE NUANCE OF IQLUSION”
※ 太文字の Q → L に変えると単語の意味は通じますが、詳細は別ページにまとめます
では実際に「鍵」を使用してK1を解読していきます。
@ PALIMPSESTの文字数(=10文字)に合わせ、《THE CODE》を10文字ごとに並べ替えます(※暗号文はK1の部分のみピックアップしています)
A 《THE KEY》の左端列から、「鍵」であるPALIMPSESTを構成しているP・A・L・I・M・P・S・E・Tの文字を探します(複数出現している文字は1文字とみなして差支えありません)
B 《THE KEY》各文字のある列を右にたどり、《THE CODE》にある文字を探します
C 見つかった文字の位置から、上に上がって交差した《THE KEY》の最上段の文字が解答になります
文章だけでは分かり辛いかもしれませんので、上の表を基に図解します。
@ 《THE CODE》の暗号を10文字ごとに並べ替える
A 《THE KEY》の左端の列から、「キーワード」を構成するP・A・L・I・M・P・S・E・Tの文字を探す
B&C コード表からAの後列と最上列(緑の列)を抜き出したもの
※ Sの列は1つで良いのですが、キーワードに揃えて2列抜き出しています
※ 列の末尾4文字は、先頭の4文字と重複するため省略OKです
つまり、「P」の列の中にある「E」から導き出される解答=「B」 ということです。
K1の解答表
「P」の下にあたるE・A・V・D・Q・V・Mは、B&Cと同じ要領で「P」の列から探す。
「E」の下L・K・N・X・T・Yなら、B&Cの「E」の列を探す。
同じコード表を使用しても、《THE KEY》の左端に「何文字数の」「何というキーワードが使われているのか」で、無限に使用を拡げることも可能です。
K2の解き方
こちらもK1同様、ヴィジュネル暗号を用いた換字式暗号です。
K2の「鍵」 = ABSCISSA
ここから導き出された文章が、
“IT WAS TOTALLY INVISIBLE HOWS THAT POSSIBLE ? THEY USED THE EARTHS MAGNETIC FIELD X THE INFORMATION WAS GATHERED AND TRANSMITTED UNDERGRUUND TO AN UNKNOWN LOCATION X DOES LANGLEY KNOW ABOUT THIS ? THEY SHOULD ITS BURIED OUT THERE SOMEWHERE X WHO KNOWS THE EXACT LOCATION ? ONLY WW THIS WAS HIS LAST MESSAGE X THIRTY EIGHT DEGREES FIFTY SEVEN MINUTES SIX POINT FIVE SECONDS NORTH SEVENTY SEVEN DEGREES EIGHT MINUTES FORTY FOUR SECONDS WEST X LAYER TWO”
補足1: 太文字 U → O に変えると単語の意味は通じますが、詳細は別ページにまとめます
補足2: 上の解答は後日サンボーン氏が「省略した」と発表した「X」を補ったものです
解読の手順自体はK1と同じですが、「鍵」が違いますので、
@ 《THE CODE》の暗号を8文字ごとに並べ替える(文字数が多いので以下省略)
A 《THE KEY》の左端の列から「キーワード」を構成するA・B・S・C・Iの文字を探す
B&C コード表からAの後列と最上列(緑の列)を抜き出したもの
文字の解は、こうなります。(一部抜粋)
なお、平文に出てくる座標 北緯38度57分6.5秒 西経77度8分44秒(38° 57′ 6.5″ N, 77° 8′ 44″ W)はCIA本部敷地内、彫刻の南西約61m付近を指します。
※ K3の解き方・K4や今後の解読にまつわるあれこれは クリプトス その2 で掲載しております。
《おまけ》
K2の全文字解読を表の形式でご覧になりたい方用に、密かに下に置いています。
K2の全文字解答表
表を最後までご覧くださった方。
一番最後の8文字(水色の着色部分)の解答が、公開された解答文章と違うことにお気づきかと思います。
この部分……2006年4月19日、サンボーン氏自ら「K2の解答の中に、欠落した文字があった」と発表したため、結果的に彫刻の文が一部変わってしまったのです。
欠けている文字は「X」で、「T」と「I」の間に入る = THE CODE の方に「S」が1文字追加される
← 「X」以降の解読にずれが発生し、「X」が欠落した状態の解答では文章の一部が意味不明になっていた
という顛末。
「X」はここに入ります。
因みに「X」が欠落した理由は、
「美的な理由のために、元々は文章を分けるために使用されていた『X』を意図的に省略した」
……つまりわざと1文字欠落させた??
クリプトスに熱心に取り組んでいる方々が、この言葉を耳にして怒り狂ったか、もしくは「してやられた」と苦笑いしたか……どちらが多数派だったのかは不明です。