事務机の鍵
※これは、ネコノヒゲの奇妙なプチ体験談です。
デスクワークが主のお仕事の方々には、事務机(スチールデスク)の鍵が開かない・キーを紛失した・インロックした……等のトラブルがたまに起こります。
しかし、そんなトラブルの対処法としては全くお役に立たない内容です。
申し訳ございませんが、予めご了承ください。
以前、某企業で事務職に就いていた時のこと。
ある朝出勤すると、同じ課の女子社員の一人が、いつもと違い、自分のデスク前で何やら困っている様子。
他の同僚も何人か近寄っては彼女に話しかけ、時には机を覗き込む方も。
ネコノヒゲも気になり、何事かと声をかけてみると、
「昨日、いつものように机の引き出しに鍵を掛けて帰ったが、今朝うっかり自宅に鍵を忘れて来てしまった」との事。
しかも1本しかないスペアキーは、最上段の引き出しの中。(文房具を入れやすい仕様の段)
そして、今日予定している仕事の書類も全て中段・下段に……。
時刻は、就業10分前。
会社と彼女の自宅間は、往復約1時間。
彼女の自宅の家族は、全員不在。
ご承知のように、オフィスでよく見かける事務机の引き出しは、一旦鍵を掛けると、キー無しでは簡単には開きません。
しかも右側3段を一斉に施錠・開錠しますので、揺すったりする程度の振動では、全く動じない作りになっています。
※別件で、たまたま構造を詳しく知る機会があったのですが、鍵部分を破壊しようと思ったら、工具と相当の労力、そして無理に破壊した場合は二度と鍵がかけられなくなる覚悟がいります。
緊急であれば鍵のトラブル専門の方々に依頼・急を要さないのであれば、メーカー様に鍵穴に刻印されたシリアルナンバーを知らせ、スペアキーを作成して頂いて取り寄せるのがベストです。
尚、ご参考までに、この会社で使用していた机のメーカーは全てコ○ヨ製で、比較的新しい型でした。
彼女は半ば諦め、上司に事情を説明した後、キーを取りに帰ろうとしていました。
「なるべく早く戻ってくるようにするから」
「仕方ないね……書類もこの中じゃ、仕事もできないし」
「あーあ、どうして今日に限って忘れてきちゃったんだろう」
「目の前にスペアキーがあるのにね……ここさえ開けば……」
と、ネコノヒゲ、何気なく一番上の引き出しに手を掛けて軽く引っ張りました。
引き出しは、がたつく程度に上下に動くのみ。
確かに金属製のストッパーが「カン、カン」と当たる感触もありました。
3度目まで。
しかしその3度目の「カン」と同時に。
何故か普通に「開いた」のです……あっけなく。
カララ……と突如目の前に現れた、引き出しの内側。
タイミング的には、マジック披露の「1・2・3!!」の「3」。
ちなみに、ロック用の凸部分は開錠状態。
言葉もなく顔を見合わせる、机の主と、開けたネコノヒゲ。
彼女の言う通り、スペアキーは、筆記用具を入れる黒いトレイの隅に鎮座していました。
つまみ上げて主に渡し、2人揃ってキー(ネズミの国のストラップ付)を凝視。
「……スペアキー?」
「……のはず……」
が、先に必要書類や筆記用具を取り出してもらい(また開かなくなったら仕事が出来ません)、一旦引き出しを閉め、机の主に再度鍵の開閉を確かめてもらいました。
引き出しを開けたままキーを差し込んで回してもらうと、縁の凸部分は、ぴょこぴょこ出たりひっこんだり、正常反応。
鍵、普通に掛かります。
解除も特に問題なし。
壊れた感ゼロ。
この机のスペアキーで間違いなさそうです。
で、もう一度最初の状態を再現(=鍵が掛かっている状態)。
さっきと同じタイミングで、引き出しを引っ張ってみました。
……が、何度試してみても、この後、ロックされた状態で引き出しが開くことは二度となかったのです。
状況をまとめます。
・机の引き出しは施錠されている
・本キーは自宅
・スペアキーは施錠された引き出しの中(=イン・ロック状態)
↓
・施錠されているにも関わらず、スペアキーの入った段の引き出しが「開いた」
↓
・スペアキーを取り出す
↓
・引き出しを閉め、スペアキーで再度施錠
↓
・キーを使わないと開かない状態(=通常モード)に戻る
「狐につままれた」とは、正にこの状況を指すのでしょう……。
始業直後、通常業務に取りかかる机の主の姿に、
「あれ?キー取りに帰るんじゃなかったの?」
「スペアキー会社にあったんだ、よかったね」
などと声を掛ける人が若干名いました。
「違うんです、引き出しが開いたんです……」
「キー持ってきてたの?勘違い?」
「いえ、元のキーは自宅にあってですね」
「え!?じゃ、どうやって開けたの」
「なんか……ネコノヒゲさんが引き出し引っ張ったら、開いて……スペアキーが出てきて」
「会社にスペアキーが置いてあったっていうこと?」
「引き出しに入れてたから、確かに会社にはあって……でもこの机の中だったんですけど。
どういう訳か引き出しが開いたので出せたんです」
「鍵かけてたのに?」
「はい」
「どうやって?」
「……普通に引っ張っただけ……」
「いや、無理でしょそれは」
「私もそう思うんです、でも実際開いたんです、だからスペアキーがここにあるんですっ!」
「えー……なら、その『鍵掛けた状態』で開けてみてよ、今後の参考に」
「再現できるならやってますし!鍵掛けてて開くなら、鍵の意味ないじゃないですか!!」
元来真面目な性分で、超現実主義者の机の主。
余りにも話が通じないため、徐々にキレ気味に。
ネコノヒゲはと言えば、傍観者の立場でやり取りを聞いていましたが……。
(荒ぶる彼女が般若のようになって恐ろしかったのです)
実際その瞬間を目の当たりにしていないと、確かに「何のこっちゃ?」的な話()
なので、2人とも腑に落ちないままではありましたが、以降この一件に触れることなく、この出来事は風化していったのでした。
後日。
同タイプの事務机(中は空)に遭遇する機会がちょくちょくありました。
全ての机のキーの有無を確認していた時、ふと、あの出来事を思い出し、ついでに毎回こっそり試してみることに。(ロックしたまま、引き出しが開くかどうか)
しかし、数百回チャレンジしても、1つとして開く机は出ず。
万が一開く机に出会っていたら、セキュリティ上問題がありますので、この話をご紹介することもなかったでしょうが、開かないことは検証済みですので、逆にメーカー様にお尋ねします。
……ロックされた引き出しが、こんなけったいな開き方をしたという実績や報告、あります??
なければ。
一生に1回限定で「アロホモラ」が使えてしまったのでしょうか?
ネコノヒゲの七不思議のひとつです。
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