※ネタバレ有 「Kate & Leopold/ニューヨークの恋人」感想
※多数ネタバレしています。そして、超長文です。
個人的に、この部分が面白い、と感じた部分を箇条書きにまとめます。
《レオポルド役の選定が的確》
この役に実力派ヒュー・ジャックマンを起用したのは大正解だったと思います。
女性の望む、どんな状況に陥ってもブレない騎士道精神が、余すことなく表現されることになりました。
ヒュー・ジャックマンのルックスに騎士道精神を足したら、……惚れます。
「彼のマーガリンなら、お尻のぜい肉もなくなるかも」の説得力も増大します!
《エレベーターあれこれ》
@スチュアートが落下する羽目になった、エレベーター事故
ケイトも、中途半端に止まった段差を乗り越えるシーンがありました。
そしてテレビから流れた「バッテリーパークからブロンクスの広範囲で、全てのエレベーターが故障」のニュース。
これに関する回収が見当たらないので、あくまで想像で補填します。
タイム・トラベルのキーワードが「落下」。
そして、エレベーターの発明の際、動力になるのも「落下」。
なので、レオポルドが、時空の傷を渡る際のエネルギーにシンクロし、エレベーターが多数同時に「落下」する事故が発生。
当然といえば当然?ニューヨーク中のエレベーターにも、自分達の生みの親である彼の運命を導くため、明確に力が加わった……という解釈でよろしいでしょうか?
ちなみに、「恋に落ちる」のも、「落ちる=落下」が絡むという。
なかなか深いですね!
A執事の名前が、現代にもあるエレベーター会社の名前
レオポルドのモデルになったのが、発明家・起業家のエリシャ・オーティス(Elisha Graves Otis)。
オーティス氏の年代は、過去の舞台と一部かぶっています。
さすがに公爵(=ガルバリー公爵)の名前には起用されていないものの、さりげなく執事の名前にする遊び心が良いです。
B少々残念だったシーン
スチュアートが調べていた貴族図鑑。
エレベーターを発明した人物を紹介しているページの構成が、結構ずさんだったのが残念。
全く同じ記述が、段を変えて2ヶ所に使い回されています……。
こういう部分に手を抜くのは頂けません。
見ている人は見ていますよ?
《王立英語》
完璧なキングス(クィーンズ)・イングリッシュを話すレオポルド。
声質も相まって美しいことこの上ない響き。
しかし、アメリカ英語と王立英語……どれくらい違うのでしょう?
舌を巻かない・単語の使い方や文法が一部違う・読み方……等、細かい違いが多数ありますが、国内で関東方面から関西方面に移動した違和感という表現ともかけ離れているような気がします。
(イントネーションの違いは、そこまで極端ではないはずなので)
もう少し的確な比喩が見つかれば、と悩むところです。
日本の学校で習う英語は、主にアメリカ英語。
ですが、発音だけ取り上げて比較すると、日本語ベースだと、キングス(クィーンズ)・イングリッシュの方がとっつきやすいのではないかと密かに思っています。(巻き舌なしで、発音も近い)
ヒアリングしてみても、聞き取りやすい=真似しやすい。
もしご興味があるのでしたら、イギリス英語限定の習得も面白いのではないでしょうか。
……ただし、アメリカ英語圏内では、レオポルドの物腰に対する評価同様、少々「気取ってる」と評される傾向はあるようです()
《発明家ならではのこだわり》
レオポルドがトーストを焼き、火災報知器を鳴らしてしまうシーン。
1回では生焼け、2回では焦げる。
1.5回で焼く調節機能がない!と散々なじったジェネラル・エレクトリック社(General Electric Company)製のトースター。
映画では「ジェネラル(将軍)」の部分が強調されていましたが……実はこれ、トーマス・エジソンの作った会社。(※1878年なので、過去に戻って2年後の設立)
冒頭で、発明家の名前を列挙して賞賛していた中に、エジソンの名もあったので、後日ケイトからその事実を聞かされたら、相当ショックを受けるんだろうな……。
(石鹸味のマーガリンで激怒するくらい、モノ作りにこだわりのある方ですし)
そして、時代と共に変質した理念と、現代の自社製品の欠点をさっくり皮肉られたGE社。
思わずニヤッとする小ネタです。
キッチンタイマーとカトラリーを組み合わせて、思う通りの時間に、思い通りの焼き加減に調節する工夫をする辺り、流石発明家の卵。
手近なもので改善する姿勢は、どんな困難にも対応していける度量を感じます。
《白馬の王子》
ケイトがタクシーに乗る直前、バッグをひったくられるシーン。
必死に追いかけるも息切れし、呆然とする彼女の背後に、颯爽と「白馬の王子」が!
観光用の馬車に付けられていた馬に「姫」を乗せ、見事犯人からバッグを取り返すレオポルド。
余りの格好良さに、上の橋桁からも賞賛の拍手が。
思わず見とれる所ですが、何故か私は「暴れん坊将軍」の徳川吉宗がかぶってしまいました申し訳ありません!
(徳田新之助こと吉宗が、ドラマのOPで白馬に乗っているせい?
または、設定年齢が近いせい?(吉宗の初期年齢設定は31〜35歳))
この映画を日本設定に換算すると明治時代(1868年〜1912年)に当たるので、吉宗の方が150歳位年上のはずですが……騎士道と武士道に、何か共通するのを感じるのかも。
どちらもそれぞれ素敵ですが、やはりあのシーンでベンチを飛び越えるのは、ちょんまげの吉宗ではよろしくないですね……。
余談ですが、観光客用の馬車を引くために訓練された馬が、突然騎乗されて、あそこまで走れるものか、少々疑問が残る所ではあります。
《パトリスのいたバー》
脚本も監督も男性ですが、女性の心をくすぐるツボが端的に描かれていました。
特筆するのは、チャーリーがピエロよろしくはしゃくかたわらで、レオポルドがルーブル美術館の話をした時の、女性達の態度が一変した瞬間。
@どこかで見たような……と思い巡らせていたところ、意外なところに、その答えは描かれていました。
漫画「ガラスの仮面」の「2人の王女」。
平凡な素顔の北島マヤが、絶世の美少女の仮面がかぶれず悩んでいた時、同居人の麗がアドバイスをしてくれた内容でした。
「中世の騎士たちはね 貴婦人(レディ)にはことさらうやうやしく
あがめたたえるように接したそうだ
どんなおてんばでも 貴婦人として大事に扱われると
しだいにそれにふさわしい態度
物腰を身につけていくのだときいた」
長く歴史に刻まれてきた、西洋の美徳。普段はなくとも、不意にレディとしてスマートに扱われたら、やはり心を動かされるものだと思います。
素敵な淑女は、実は騎士達が磨いて完成させる面もあるのですね……。
その一端を、このシーンで理解できた気がします。
A世の中、合コンなる行事が多数ございます。
人数が集まるにつれ、自然に役割というか役柄(?)が決まっていくもので、中にはチャーリーのようなムードメーカー役も出てまいります。(彼は相当スベり気味ですが……)
その中で、計らずもレオポルドが口にしたルーブル美術館の話題に、女性陣の目が輝きます。
一見ラフな印象でも、美術史を専攻していたり、芸術方面に造詣の深い女性達。
この後のシーンからも、この場が大変盛り上がったであろうことは明白。
その上レオポルド、「退屈な日常」の中で、海賊の物語でのストーリーテラーぶり・ピアノ・オペラなど、様々な教養を身につけていることをうかがわせます。(乗馬もお上手)
まとめますと。
「礼儀正しくて教養が高く、話題の引き出しが多くてスピーチ力もあり、淑女への気遣いも完璧なイケメンは、時代が違っても合コンで一人勝ち」。
……上流階級、恐るべし。
《ケイトと上司の食事場所に乱入する前》
レオポルドに話題をかっさらわれるわ、憧れのパトリスからは連絡先を聞けずじまいだわで、すっかりくさってしまったチャーリー。
その彼に、レオポルドが1枚の紙を渡します。
「彼女の連絡先だ」
「お前に教えてくれたんだろ?」
「君が彼女に思いを寄せていることを伝えた」
「どういう風に伝えたんだよ」
という問いの答えがが超クール。
「彼は貴女に夢中だが、恋人がいるのではと思い悩み、行動を起こせずにいる、と」
……真に男気のある男性というのは、同性にもきちんと気遣いや的確なアドバイスができる。
お互いに足を引っ張り合ったり、蹴落としたり、小ずるいことはしない。
(中にはそういう方もいますが、レオポルドは頑固で、そういう卑怯なことは嫌う性分かと思われます)
そういう誠実な人柄だからこそ、今度はチャーリーが逆にアドバイスするシーンも。
女性は案外、男性同士の付き合い方も、きちんと観察しているもの。
ですから、このシーンは密かに好感度が高いのでは……と思います。
《羽根ペンの手紙》
キャンドルの光の下、ケイトと上司J.J.(ブラッドリー・ウィットフォード)のディナーに乱入した無礼を詫び、ディナーにお誘いする手紙をしたためるシーン。
あのシーンをボールペンやマジックペンで書いていたら、確かに絵になりません()
ペンスタンド一杯にペンが刺さっているにも関わらず、わざわざインクだけをコップに移し替え、羽根の芯を削り、
……削る?
そういえば、当時の羽根ペンの先、どういう構造なのでしょう??
と、妙な部分に食いつき、調べてみました。
端折りますと、羽根の芯の先端をナイフで削り、カットして、万年筆のペン先と同じような形に仕上げるんですね。(※正確には前作業工程があります)
で、ペン先が傷んできたら、また削り……鉛筆のようにだんだん短くなっていく。
なので、当時の方々は作り慣れていたのでしょうが、あんなにスピーディーにはできないかな。
でも1度チャレンジしてみたくなりました。
折を見て、サイトのどこかでご紹介するかと思いますので、発見した際はニンマリして頂けますと嬉しいです。
《執事オーティス》
1876年のパーティーに乱入するケイトが、何故初対面でオーティスが分かったのでしょう?
そのキーワードは、ケイトがベッドでレオポルドに毛布を掛けてもらう時の一言の下に。
2人で語り合った際、両親のいなかったレオポルドは、恐らく、幼少の時から身近で面倒を見てくれていたオーティスの事を話したに違いありません。
だから、ケイトは彼を見分けられたのでしょう。
《マサピクア》
名前を紹介された時、「マサピクアの!」とケイトが付け加えます。
これは、ニューヨークにある地区名の1つ“Massapequa”。
このシーンで地名が飛び出してくるのには、貴族社会のあった歴史背景が隠れてます。
当時の貴族の面々。
ご存知かと思いますが、名前が超長い方ばかり。
と申しますのも、名前には、出身地や、下手すると父母の名前まで織り込まれているのがデフォ。
……そうですね。
漫画界の哲学者の異名を持つ、川原泉様の作品「笑う大天使“わらうミカエル”」のロレンス先生をご存知だと、さらに分かりやすいかもしれません。
※イギリス出身の古文担当の先生。
若かりし頃のロバート・キャンベル/Robert Campbell 様を彷彿とします()
ロレンス先生の本名は、
“The Right Honourable Henry Ethelbert Lord Lawrence of Northumpool”
(ザ・ライト・オノラブル・ヘンリー・エセルバート・ロード・ロレンス・オブ・ノーザンプール)
直訳すると、
ノーザンプール伯爵(→男爵?子爵?)ヘンリー・エセルバート・ロレンス卿。
英語圏の順序は日本と真逆ということを前提に、名前のおしまいから解説。
・ノーザンプール → 架空場所ですが、順序としてはここに地名が入ります
・ロレンス → 日本でいうところの「苗字」
・ロード → 「領主」とか「君主」の意
・エセルバート → ミドルネーム(もしくは洗礼名)
・ヘンリー → ファーストネーム
・ザ・ライト・オノラブル → 「閣下」
ですので、全体的な意味合いとしては、
「ノーザンプールを治める領主、ロレンス氏の直系ヘンリー・エセルバート閣下」。
話が少々逸れてしまいましたが、こういった事由で、由緒正しき家名には出身地域の地名が入るのが慣例。
そして、シチュエーションは、お名前に地名の入っていない方々など参加していない、超セレブパーティー。
ここで大々的に紹介された以上、地名は必須。
で、ケイトの生活拠点はニューヨーク。
……しかし「ニューヨーク」では大変都合がよろしくない。
(何故なら、時代が違っても、今いるパーティー会場も「ニューヨーク」ですから)
そこで機転を利かせ、細かい地区名を口にした、ということです。
「マサピクア」が、スタッフの1人が住んでいた地区名というのは、有名な小ネタですね。
《消化不良》
指輪のエピソード。
レオポルドが育った場所は、イギリスのサセックス。
両親を亡くした後、比較的早い段階でおじの家に来たのであれば、宝箱が秘密の場所に隠してあるのもうなずけるのですが、そうなると、「花嫁探しのためにニューヨークにやってきた」という映画紹介とは、ニュアンスのずれが生じます。
そもそも、貴族の屋敷はかなり部屋数が多く、屋敷によっては、たまに宿泊する親族用の部屋もそれぞれ常備されていたりすることも多いのです。
「僕の部屋」という表現が、長年使っている部屋を指すのか、それとも別宅レベルの感覚なのか?
そこが明確になっていません。
試作品のミニチュアエレベーターが部屋にあるのも、元々部屋にあったものなのか、旅に携行したものかも分からず。
現代のニューヨーク舞台で「おじに触れられたくないものは、ここに隠している」と、隠し場所を開けましたが。
結婚相手を探すというミッション目的であれば、何も宝箱まるごとでなくても、指輪だけ持ってニューヨークに参じ、隠し場所にしまっておくだけでいいように思うのですが……。
それとも、結婚を機に、ニューヨークに永住する流れだったから、覚悟を決めて身の回りの品を全部持ってきたということでしょうか?
この辺りの詳細が弱いのが、大変に惜しい部分のひとつ!!!