国道

《国道》

 

スピード違反を取り締まっていた巡査は、やたら速度の遅いクルマを発見し、かえって危険なため停止させた。

 

中には80歳くらいの女性が5人乗っていたが、運転していた老婆以外は、みな目を見開き、真っ青な顔色をしていた。

 

運転席の老婆は、不思議そうに尋ねた。

 

「お巡りさん、あたしはいつも標識どおりの速度で走ってますよ。

 

今だって標識どおりの21キロで走ってたんですから」

 

巡査は事情を理解し、微笑みながら言った。

 

「お婆さん、あの標識の“21”というのは国道21号線という意味ですよ」

 

その言葉を聞き、老婆は恥ずかしそうに答えた。

 

「あれま、そうでしたか。それは失礼しました」

 

 

巡査は老婆に運転に気を付けるように言ってから、一つ気になっていることを口にした。

 

「なぜほかの4人の方々はさっきから一言も喋らないのですか?

 

何だか全員放心状態のように見えますが」

 

すると運転席の老婆が答えた。

 

「さっきまで、みんなで楽しくお喋りしてたんですけどね。国道258号線に入るまでは」

 



 


 
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